2014年2月9日日曜日

Theatre Essay 観劇雑感 “日本史の闇”に「アッサリ」切り込む『洋服解体新書』(2014.2.8 座・高円寺)

『洋服解体新書』わかぎゑふ、山藤貴子、西牟田恵
文明開化で洋装が急にもてはやされた時代に、とある仕立て屋にやんごとない方からの有難いオーダーが入り、起こる騒動を描く。

プログラムで作者のわかぎゑふは「(40代の頃から、歴史の)闇をアッサリ書くことを試してきて、今回やっとひと山登れた気分です」と述べているが、冒頭からしばらくは、登場人物たちの人柄描写的な場面が続く。職人気質を絵に描いたような者(佐藤誓)がいるかと思えば、ある夢を胸に仕立て屋に弟子入りしようとする若者(うえだひろし)も、貴族(伊東孝明)に身請けされ、仕立て屋の店長を務めることになった元・芸者(西牟田恵)も、うさんくさい競売人(浅野彰一)も、ちょいとエキセントリックな「やんごとないお方」(若松武史)も登場。コメディタッチではあるがストーリーとしてはそれほど動きが無いことにうずうずしてきたころ、突如として物語は展開し、ばらばらに見えていた人々の関連性が見えて来る。

今回の「(歴史の)闇」は、劇中で「山城の鬼」と呼ばれる人々のこと。彼らは奈良時代の昔から1200年にわたり天皇に仕えたが、その仕事内容のために人間ではなく「鬼」として扱われてきたという。 ひょんなことから、この「鬼」の一族の女二人(谷川未佳、小椋あずき)が罪に問われ、長老はその身分のため一時は彼女たちの救済をあきらめかける。が、そこに「新しい時代」の「女(店長)の柔らかい思考」が待ったをかけ、それに呼応して関係者たちが一致団結、女たちを救う。すっきり鮮やかに事件は解決するが、「鬼」の存在が継続してゆくことも最後には示される。調べてみるまで筆者も知らなかったが、この「鬼」は「八瀬童子」と呼ばれる人々をモデルにしているらしい。人権や差別問題にも繋がる「人間社会の在り方」について重い問いを投げかけるこの作品、東京公演は「マネー」と「人間」とどちらを優先させるのかと究極の選択を迫っているように見えた都知事選と、奇しくも時期がオーバーラップ。巧まずして絶妙のタイミングとなっている。

『洋服解体新書』若松武史、浅野雅博
場面としては、ポイント、ポイントに差し挟まれる「やんごとない方」と執事の問答が、若松武史の流麗かつ「いわくありげ」な動きと、彼を冷静に受け止める執事役・浅野雅博の安定感ある芝居で抜群に面白い。テレビドラマ『相棒』にゲスト出演時、若松は動かない芝居でニュアンスを豊かに醸し出していたけれど、こういう「動ける芝居」での彼はさらに水を得た魚のようで、観ていてこちらまで楽しくなってくる。日本演劇界の貴重な存在だ。

当日は最後のカーテンコールで、わかぎゑふが「今日は皆さん、遭難覚悟で(笑)大雪の中、お運びくださり有難うございました。無事にお帰りになれるか…それだけが気がかりです」と挨拶。親身な口調で、座員から「お母さん」と慕われているというのが頷ける人柄が感じられた。

2月16日まで座・高円寺、3月13~16日まで近鉄アート館で上演。