2014年10月25日土曜日

Theatre Essay 観劇雑感 「力技」のコメディ経由サスペンス・ドラマ 『The 39 Steps』天王洲銀河劇場2014.10.23



『The 39 Steps』

世間的には現在放映中の『アオイホノオ』(BSジャパン)等、映像分野で広く知られる福田雄一だが、いっぽうでは『スパマロット』『フル・モンティ』『タイトル・オブ・ショウ』と立て続けにミュージカル・コメディを演出。作品の舞台や時代設定を超越…というか敢えて無視し、キャストの外見・経歴に関するギャグから、その時々にヒットしているモノ・コト・日本演劇界の事情までをも「力技」で盛り込み、笑わせるその斬新な手法、「しれっと」感は、演劇界の台風の眼ともなってきている。
『The 39 Steps』
その彼の最新演出作が現在、ロンドン・ウェストエンドでも上演されているストレートプレイ『THE 39 STEPS』。ヒッチコックの同名映画の舞台化で、国家機密漏えいの危機に巻き込まれた男の逃避行を描く。舞台版は、139にも及ぶ役をたった4人で演じるという趣向だ。
『The 39 Steps』
1935年のロンドン。気晴らしにロンドン・パラディアム劇場(近年は『ヨセフと不思議なテクニカラーのドリームコート』『オリバー』等ファミリー層に人気の作品がよくかかる劇場)へと出かけたリチャード・ハネイは、発砲事件に遭遇し、いわくありげな美女を自宅へとかくまう。だが国家機密を守ろうとしているという彼女はその晩のうちに殺され、リチャードは容疑者として追われる身に。スパイたちにも狙われ、彼は美女の残した言葉を手掛かりにスコットランドへと旅立つ…。 
『The 39 Steps』
「福田流」の笑いの手法はここでも健在で、今しか通じない(かもしれない)ネタがてんこ盛りとなり、数分間隔で笑いを誘う。主人公リチャード役は出ずっぱりのため、渡部篤郎はさすがに一人一役で演じているが、いわくありげな美女と後にハネイの逃亡に巻き込まれ、恋の相手となるパメラ等4役を水川が、そして残りの134役を佐藤二朗と安田顕が演じている。福田の演出舞台ではいつも、演者がしごく楽しそうに演じているが、今回もその例に漏れず、4人は生き生き。渡部は絶体絶命の状況で初めて生の実感を抱き始める男を柔軟に演じ、しっかりもののパメラが本来のニンである水川は「妖しげな美女」役を妙なハイテンションで面白く見せ、佐藤と安田は役者冥利に尽きるとばかりに怒涛の134役に体当たり。ご本人の中でも「意外にこういう役どころ、合うかも」という発見があったかもしれない。
『The 39 Steps』
特に前半はギャグ満載のためコメディのつもりで観ていると、物語は終盤に近付くにつれシリアスな要素を増し、「敵」に利用された或るキャラクターの哀しい最期、そしてハネイの人生に対する虚無感とほろ苦い別れが、出演者の巧みな演技でしんみりと描かれる。それだけに最後のどんでん返しは鮮やかで、ここで佐藤と安田が行うちょっとした動作が季節感と幸福感をアップさせ、心憎い。ラストの「サンタが街にやってくる」をはじめ、全編に流れるスタンダード・ナンバーも洒落たムードを盛り上げている。

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