2013年11月15日金曜日

Theatre Essay観劇雑感  「歌舞伎」という芸能ならではの、伝承という温もり(『明治座十一月花形歌舞伎』)



獅童、右近、笑也、松也という珍しい顔合わせで、明治座で花形歌舞伎公演が行われている。 

夜の部は歌舞伎十八番『毛抜』、舞踊『連獅子』、新歌舞伎の『権三と助十』という取り合わせだが、この中では『毛抜』が面白い。怪奇事件に揺れる小野家に乗り込んだ粂寺弾正が、毛抜きをしていて事件のからくりに気づき、陰謀を暴くというのが主筋で、バイセクシャルらしい弾正が小野家の美少年や腰元にちょっかいを出しては振られたり、トリックに気づく瞬間を連続見得で華麗に見せたりと、弾正の破天荒で稚気溢れる描写が立体感をもたらす演目だ。 

『毛抜』獅童 写真提供:松竹
弾正を演じる獅童は、(今は亡き)團十郎に役を習ったのだという。後半、悪者たちを追い詰めてゆく台詞を聞いていると、ところどころ團十郎を髣髴とさせる口跡にはっとさせられる。師の台詞を聴きこんで、役に取り組んでいることがうかがえ、芸を世代から世代へと渡してゆく、「歌舞伎」という芸能ならではの温もりが感じられる。 

“黒幕”玄蕃を大きさ十分に、ゆとりをもって演じる猿弥、類型的な「なよっとした美少年」ではなく武家らしく芯のある秀太郎を演じる春猿のうまさが光り、古風な風情で観る者をほっとさせる門之助が、小野家当主を楷書で演じて舞台を引き締める。また通常はベテランが演じる家老をまだ20代の松也が落ち着いて演じているのが、嬉しい驚き。当主の息子役の笑也、腰元役の笑三郎、姫役の新悟もそれぞれに役を過不足なく演じていて、華やかな一幕となった。 

『連獅子』を踊るのは右近と名代昇進した弘太郎。澤瀉屋ならではのきびきびとした前半の振りを、ぴったりの息でこなし、子を千尋の谷に突き落とす獅子の物語を鮮やかに描いて見せる。 

『権三と助十』松也、獅童 写真提供:松竹
『権三と助十』は駕籠かきの主人公たちが或る冤罪事件に、目撃者として関わってしまう話。助十を演じる松也が冒頭から見せる半裸が、前月、ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』でその颯爽とした洋装を見た目には衝撃的(?!)だ。そんなギャップもご本人、観客ともに楽しんでしまうのが、歌舞伎の懐の深さと言うべきだろう。 

*明治座十一月花形歌舞伎 上演中~25日=明治座